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トラットリア風料理

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今日は「総合解説」P.22の記事、“トラットリア風料理”の話。

都会に住むイタリア人がイメージするトラットリア風料理とは、どんなラインナップなんでしょうか。
まあ、だいたい想像がつくのが、気取った高級感よりも家庭的な暖かさ。
前菜からデザートまで、みごとに各地の地方料理のいいとこ取りをした料理が並びました。

前菜はミラノの揚げミートボール、プリーモはトリッパとラビオリ、そしてトスカーナのリボッリータ、メインはほほ肉の赤ワイン煮込み、ドルチェはピエモンテのボネのアレンジ。


前菜がミートボールというのは意外でしたねー。
正確にはモンデギーリという名前です。
この料理については、忘れてましたが、すでにブログで一度、取り上げていました。(こちら)

確かにミラノがスペインに支配されていた時代の名残の料理です。
つい最近も、サルデーニャがスペインに支配されていた時代の名残の料理の話をした記憶が・・・。
そうそう、パナーダスだす。

残り物を有効利用した究極に家庭料理な一品が、トラットリア風コースの前菜。
ミラノ人以外には理解されにくいこの偏愛ぶり。
この記事を考えた人、ミラノ人ですねー。





まあ、トラットリア風料理には、作る人の家庭料理や、過去の記憶への個人的な思い入れが反映される、ということでしょう。
それが醍醐味でもあるし。

でも、次のトリッパは、いかにも典型的なトラットリア料理というイメージ。
イタリア各地に名物トリッパがあるので、作った人がどこで修業したかは、トリッパで分かるかも。

リボッリータは黒キャベツが入っていて、かなり本格的なトスカーナ料理。
これは、珍しいイタリア野菜が手に入ったら、その産地の名物家庭料理にすると、いう鉄則を遵守していますねー。

メインはイタリアだけでなく、多分世界中のトラットリーアの定番中の定番、牛肉の煮込み。

ちなみに、今月の「総合解説」の料理の基礎リーズ、牛肉編のテーマは“ストゥファート”。
肩バラの煮込み、肩肉のブラザート、トマト入りオッソブーコのリチェッタも載せています。

そしてドルチェは、パンとチョコレートのトルタとアマレッティのブディーノの2品。
どちらにもパン粉が入っていますよ。
チョコレートやアマレットの高級そうなケーキも、パン粉が入るととたんに家庭的になるものだなあ。
それと、アマレッティのブディーノは、「総合解説」のページに写真も載せたのですが、
平べったいブディーノの上に、その厚さを上回る高さのホイップクリームが山盛りになっているという、食事の最後にふさわしい大トリ感。
この演出もトラットリア的。





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“トラットリア風料理”のリチェッタは、「総合解説」13/14年2月号に載っています。

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ハロウィンだけどカーニバルの話

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今年もハロウィーンの季節がやってきましたねー。
今年は、例年になく、ご近所が浮足立ってます。
コスプレしてはしゃぐちびっこたちは可愛いのですが、
スクリームのお面に黒いマントの大人が家の前に立ってた時は、通報したくなりました。
大人がこの種の仮装をする時は、遊び心が必要ですねー。

日本のハロウィンは、大人も仮装してはっちゃけるので、気分的にはカーニバルに近いんじゃないでしょうか。
そういえば、今月の「総合解説」は、2月号ということもあり、カーニバル料理の記事が2つあります。
イタリアの伝統的なカーニバルの食べ物と言えば、揚げ菓子、特に、おしゃべりという名の揚げ菓子、キアッキエレが有名ですが、
カーニバルのドルチェとは別に、カーニバルにぴったりの遊び心のあるリチェッタも訳しています。
イタリアの伝統料理という縛りがなくなると、普段は敬遠しているアングロサクソンや永遠のライバルフランス料理も大いに取り入れて、楽しいコースメニューを考え出しています。
聞きなれない英語やフランス語の名前の料理もあったので、今回はこのメニューの簡単な解説です。

まずは、ウーピーパイ。
これはアメリカ版マカロンとう説明の通り、アメリカのお菓子です。
ウーピーパイ
 ↓
Whoopee Pies

ふつうは甘いクリームを挟みますが、そこはイタリア人、記事ではゴルゴンゾーラとマスカルボーネを混ぜたクリームをはさんでいます。
ちなみに、ウーピーは、やったー!という意味。

次はジャンボン・ペルシエ。
ジャンボンはフランス語でハムのこと。
そう、今度はフランス料理です。
豚肉とパセリのゼラチンよせのテリーヌですが、これをとてもカラフルな美しい一品に仕上げています。
きれいだったので、写真は「総合解説」のページにupしました。

ジャンボン・ペルシエ
 ↓



イタリア版は、ズッキーニやパプリカでカラフルに賑やかに仕上げています。
カーニバルには、カラフルな紙吹雪が欠かせませんが、それがモチーフになっています。

紙吹雪が舞うウーディネのカーニバル
 ↓
Carnival. From Inside.

締めのドルチェの1つ、ポップタルトは、ケロッグの製品。
アメリカで大人気の朝食向けお菓子。
薄い長方形のパイにさまざまなクリームをはさんだもの。




どんな味なのか想像もつかないけど、おこちゃまは好きそうですねー。

という訳で、ジョークが利いているなら、なにをやってもOKなのが、カーニバルの料理のようです。
でも、そういう時こそセンスが問われるなー。




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“カーニバル”と“カーニバルのドルチェ”のリチェッタは、「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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エキストラバージンオイルのイタリアンパラドックス

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ミラノエキスポ、終了しましたねー。
知り合いのご隠居、いつも、エキスポに行くと言っている割には、まだ人が多いらしいからと様子見をしていたのですが、終了間際になって、とうとう行ってきたそうです。
家に帰るなり興奮して電話してきて、日本の展示が一番よかったよー。5時間並んだけどねー。
だって。
結局、一番混んでいる時に行っちゃったかもねー。
日本は展示デザイン部門で金賞だそうで、かかわった皆さま、おめでとうございます。
お疲れさまでした。

グランフィナーレ
 ↓



ところで今日は、今月の「総合解説」で一番興味深かった記事、“エキストラバージンオイル”イタリアのオイル業界が抱える悩み、イタリアンパラドックスについて。
ガンベロ・ロッソの記事です。

記事によると、イタリアンパラドックスとは、
「イタリア由来のイタリアの文化にルーツを持つ製品で、イタリアの食文化の大黒柱となるようなものが、将来的に外国のものになってしまうということを意味する」
のだそうです。

その一例が、エキストラバージンオリーブオイル。

オイルの味の良さというのは、大手メーカーの大量生産品には感じることはできず、職人が作るアルティジャナーレの高価な製品のみがもつ特徴です。
ところが、そういった品質に特化した生産者は、その利益の大部分をイタリア国内ではなく国外で上げています。
素晴らしいオイルを作るのは難しい、でも、それをイタリアで売るのはもっと難しいのです。

しかし、アメリカのエキストラバージンオイルの市場の98%は低級品で、専門店で販売される上級品はわずか2%だそうです。
ところが、あるアメリカのインポーターが、イタリアの上質オイルメーカーに初の注文として試験的に出した注文数は、このメーカーの1年分の生産量に等しい2万本でした。
確かに、大手に有利な法律で固められた国内で売るより、簡単にもうかりますねー。
アメリカはジャンクフードへの危機感から健康的な食品への注目度が上がっているんだそうです。

でも、ここに落とし穴があります。
外国では、ポリフェノールの量、苦さ、辛さだけに興味を持たれる。
イタリア人は自国の伝統の食文化を広く伝えて価値を高める方法を知らない。
ミラノで食がテーマの万博やったのも、ここらへんのジレンマがあったのかも。
イタリアでは上質オイルが正しく評価されていない。
イタリアの素晴らしいオイルの作り手は、外国の市場がなければ生き延びれないだろう、というのが現状なのです。

で、ある上質オイルの作り手が今、一番注目している市場は、アジアなんだそうです。
特にシンガポール、香港、台湾は、上質オイルの小さなパラダイス。
中国は関心は膨大ですが、まだ知識は少なく、購買金額も低いそうで、まだ大流行とまではいっていないそうです。
日本に関しては、なんと、多くの点でアメリカより先を行っているそうですよ。
イタリアまで勉強に来て、入念に準備している姿が好意的に受け取られているようです。

でも、一番注目している国は、市場が急速に拡大中のノルウェー。
メーカーによっては、ドイツやイギリスを抜いてヨーロッパ最大の輸出国になったところもあるそうです。

メーカーにとっては、確かに一番多く買ってくれるお客が一番いいお客さん。
でも、それが自国ではなくて外国、というのは、結局、スパゲッティやピッツァやパルミジャーノや生ハム同様、エキトラバージンオイルも他国に持ってかれるという危険性をはらんでますねえ。

おまけの動画。
オリーブオイルについて知っておくべき3つのこと。
 ↓



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“エキストラバージンオイル”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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カルチョーフォ・ロマネスコとイル・ポスティーノ

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今日のお題は、カルチョーフォ・ロマネスコ。

このブログでは以前にも取り上げて詳しく解説していました。
(こちら)

今回の「総合解説」では、メイド・イン・イタリーの食材として、つまりイタリアを代表する国民的食材として紹介しています。
アーティチョークの中でも、ロマネスコは、アグロ・ロマーノと呼ばれるローマ郊外で栽培される、独特のまん丸い形をした棘のないアーティチョーク。
IGP製品は直径10㎝以上と決められている大型の美しい野菜です。

gastronomia romana

代表的な料理はユダヤ風とローマ風。
そのリチェッタも昔のブログで詳しく訳しています。

前回は、映画『星降る夜のリストランテ』の話題を出して、ユダヤ風とローマ風のエピソードを説明したりしてました。

偶然ですが、今回の記事でも、映画の話が引用されています。
今回の映画は、『イル・ポスティーノ』(1994)です。
イギリスと日本で外国語作品賞を受賞した秀作。
主演の役者が重病をおして演じ続け、撮影終了直後に亡くなったことも衝撃的でした。

この映画のもう一人の主役は、パブロ・ネルーダという実在の詩人です。
この人は、ノーベル文学賞も受賞しているチリの国民的詩人だそうで、そんな詩人がイタリアに亡命していた間のことが、この映画では、美しく感動的に描かれています。

イル・ポスティーノは島の郵便配達人。
狭い世界に住む無垢な青年が、国民的詩人と触れ合って、芸術や生きる喜びに目覚めていくという淡々とした物語です。
ネルーダは、比喩が得意な詩人として知られていました。
そのあたりのシーンをどうぞ。
 ↓



私がこの映を観た時は、パブロ・ネルーダがどれほど世界に影響力を持つ人なのか知りもせず、
ましてメタファーの話なども事前知識は何もありませんでした。
つまり、この郵便配達人と同じ状態。
でも、何も知らないと、新品のスポンジのように、どんどん吸収して、受ける感動も大きいものですね。
小難しい芸術的な話も、なんとなく分かったような気がしたものです。

さて、ネルーダは、アーティチョークもメタファーで表現しました。
国民的詩人は、アーティチョークを何に例えたのでしょう。

ヒントは、アーティチョークの下ごしらえにあります。




答えは、柔らかい実を堅い鎧で包んだ戦士だそうです。
彼が亡命したのはカプリ島だったので、彼が知っていたアーティチョークはロマネスコではなくて、もっと棘々した品種だったはず。
ロマネスコは棘がないので非武装の鎧ばかり立派なボンボンみたいな太っちょ戦士ですね。
私の比喩の才能なんて、こんなもんです。




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“カルチョーフォ・ロマネスコ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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ポレンタ・タラーニャといなずけ

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今日のお題はポレンタ・タラーニャ。
ヴァルテリッリーナ名物の、そば粉入りのポレンタ。




タラーニャというのは、タラなんちゃら地方の料理という意味かなあ、なんて漠然と思っていたら、全然違いました。
ポレンタをかき混ぜる木の棒のことを、地元の方言でタライとかタレッロと呼んだからなんだそうです。
ポレンタのかき混ぜ方は外から内側に向かってかき混ぜるんだそうです。
バターはよく溶かすけど、チーズは溶かしすぎないとか、テクニックが色々あるのですねえ。

ポレンタ・タラーニャは北イタリアの冬の代表的料理の一つなので、いろんなところで語り尽くされた感がありますが、今回の「総合解説」では、『サーレ・エ・ペペ』誌が見つけた新しい情報を紹介しています。

それは、文学で描写された最初のそば粉のポレンタについて。

料理の話の時、よく引き合いに出される文学は、ランペドゥーサの『山猫』、ダンテの『神曲』、ボッカチオの『デカメロン』、カミッレーリの『モンタルバノ警部』シリーズあたり、そしてたまーに登場するのが、イタリア近代小説の最高峰、マンゾーニの『いいなずけ』です。

ぶっちゃけ、モンタルバノ警部以外は手に取ろう思ったこともありませんが、やっぱりイタリア人は読んでるんですねえ。
さらっと、高尚な話題が出てきます。
『いいなずけ』をこれから読む人は、第6章にそば粉のポレンタが出て来るらしいので、お忘れなく。

ちなみに、「・・・曲がった木べらで灰色のそば粉の小さなポレンタを練り混ぜた」
という描写で、イタリア人や料理人なら、これはポレンタ・タラーニャを作っているんだとわかるでしょう。
さらに
「ブナの木の皿にあけたポレンタは、大きな湯気に包まれた小さな月のようだった」
と言われて、その姿が思い浮かぶ人は、湯気のたったポレンタを見たことのある人ですよねえ。
さらにさらに、
この時代は食糧難で、人々は飢えていた、という重要な時代背景もあります。
そば粉はこんな時代に手に入る貴重な食料だったんですね。
つまり、ヒロインはこの月のようなポレンタを待ちわびていたのですが、それでも少なすぎたんだそうです。
ポレンタの陰に、そんな話が隠されていたなんて。

そばは17世紀末にヴァルテッリーナに伝わり、高地でも容易に育ち、他の穀物より早く熟したのですぐに広まりますが、19世紀後半以降、窒素肥料の登場により劇的に生産量が減ります。
イタリアにそば粉のパスタが普及しなかったのは、そのあたりに原因がありそう。

そばの受粉には大量の蜂が必要。
そこで、ヴァルテッリーナではそば栽培と養蜂がセットで行われています。
白いそばの花がきれいですねー。
 ↓



ヴァルテッリーナは蜂蜜でも有名。
特にそばの蜂蜜は、かすかにこしょうやシナモンの香りがして薬効もある上級品。
でも、そばの栽培の減少と共に蜂蜜の生産量も減って、幻の食材になりつつあります。



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“ポレンタ・タラーニャ”の記事とリチェッタの日本語訳は、「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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アルバ・ペゾーネの『パスタ』

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今日はお勧め書籍の紹介です。

タイトルは、ずばり『パスタ』。
http://creapasso.com/books.html

初入荷はだいぶ前のことですが、最近偶然見直したところ、とても興味深い内容で、お気に入りの1冊になりました。

副題に『南イタリアの味と香り」とあるように、南イタリアの有名シェフたちの乾麺のパスタのリチェッタ集です。
カンパーニアのシェフの“黒豚のラグーのパッケリ”に始まって、ローマの“パッケリのアマトリチャーナ”で締める料理の選び方も面白いし、シェフたちに密着した写真も面白い。
料理はどれも美味しそうだし、カッコいい。
本場のプライドがにじみ出てます。

著者は、・・・ん??
アルバ・ペゾーネですと??

ははーん、納得です。
どこかで聞いた名前だと思ったら、この人、『ピッツァ』というこれもまたとても興味深い本も出しているんですよ。
まだホームページには載せてませんが、チラシでぼつぼつ紹介を始めているので、ご存じの方もいるかも。
今気がついたなんて、トホホ。

『ピッツァ』は、その名の通り、ナポリの有名ピッツェリアの料理集です。
著者のペゾーネさんはナポリで生まれてパリでイタリア料理を教えている料理研究家でジャーナリスト。
とにかく地元のこねを活かしまくって精力的に取材し、地元ならではの面白い食材を使って、かゆいところに手が届く、いたれりつくせりの本です。

『パスタ』では最初に、パスタの名前の由来を紹介しているのですが、そういえば、ジーティの名前の由来なんて、知らなかったなあ。

辞書で調べると、男のいいなずけだって。
なんだこりゃあ。

ジーティ
 ↓
15_36_41


本によると、ジーティは南イタリア独特の穴あきのロングパスタですが、太くて大型のため、乾燥させるのにとても時間がかかるパスタでした。
冬場だと30日かかったそうです。
そのため、結婚披露宴など特別な機会にだけ食べるご馳走でした。
ナポリの方言では、zitoとはfidanzatoという意味なんだそうです。

日常的で身近なものの名前をつけることが多いパスタの名前の中では変わってますね。
ちなみに本で取り上げたジーティのリチェッタは、イスキア島のシェフの“ヒメジ、レーズン、松の実のメッゼ・ジーティ”と、ドン・アルフォンソの“”イカとミニトマトのジーティ。

どちらもとても洗練されていて全然田舎っぽくなく、適度に南を感じさせるパスタです。
特にアルフォンソのパスタはトッピング用のイカに隠し包丁を入れてあぶったのかな。
トマトであえていないので幾何学模様のイカの白い色とトマトソースの赤い色の対比が美しい一品。
メッゼ・ジーティも穴あきパスタ、レーズン、松の実と、こてこての南の食材の組み合わせですが、この強い味にはスパゲッティよりジーティの歯ごたえが合いそうです。

次回は『ピッツァ』の紹介です。



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アルバ・ペゾーネの『ピッツァ』

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ナポリの飲食業界に持つ太いこねを最大限に生かしてプロが作る素晴らしいナポリ料理の本を出しているアルバ・ペゾーネさん。
『パスタ』に続いて 次の本は、『ピッツァ』です。

 
ホームページには近々載せる予定ですが、ついでなので先にこちらで紹介いたします。

この本では、アルバさんが選んだナポリのピッツァイオーロ3人のピッツァを、徹底的に紹介しています。
特に、ピッツァリア・ラ・ノティッツィアのピッツァイオーロ、エンツォ・コッチャ氏は、念入りに取材しています。
ちなみに、裏表紙の印象的な2枚の写真のショートヘアの女性がアルバさん。

ラ・ノティッツィアとエンツォ・コッチャ
 ↓


「ピッツァイオーロは生地を作れりゃいいってわけじゃないよ」と語る、職人気質のおやじさんて感じのエンゾさん。
薪のかまどはどう焼けるかやトマトの品種も知らないでピッツァは作れないよ。
オイルをかけすぎたピッツァはピッツァじゃない、ボッツァpozza“水たまり”だ。
モッツァレッラを切る時は繊維に沿わせんだ、
てな調子です。
こんな人物紹介から始まって、あとは延々とピッツァの写真とリチェッタが続きます。
これが3人分ですから、すごいボリュームです。

個人的に、その中で一番気になったのは、ピッツェリーア・フォルトゥーナのチーロ・コッチャ氏のシラスのピッツァ(P.226)。

彼はエンツォの弟です。
二人のキャリアのスタートは、おばあちゃんがナポリの駅の近くでやっていた店、フォルトゥーナでした。
エンツォは独立して、チーロがおばあちゃんの店とリチェッタを受け継いだんですね。

彼のシラスのピッツァは、生地を厚みを感じさせないほど薄く伸ばし、そこにシラスを生地が見えないほどびっしりと平らに敷き詰めています。
全体的な印象は、3Dじゃなく2D。
立体感が全くない。
生地は焼き色が薄めで、主張しすぎない。
見たとたんにパンではなく、シラスの塩気が伝わってきて、じわっと唾液が出てきます。
余計なものはいらない、シラスを味わってほしい、ていう感じです。
シラスのデリケートさを味わってほしいので塩はしないのだそうです。
調味はオリーブオイル、若いバジリコ、イタリアンパセリのみじん切りのみ。
よほどシラスに自信があるんですね。

こうやってピッツァのアップの写真を100枚以上見ると、各店の個性がよーく見えてます。
生地が薄めの店、焼き色が濃い店、うーん、食べ歩きしたくなる。

3人めのエンツォ・ピッチリッロは揚げビッッァの概念を変える店、アンティカ・フリッジトリア・マサルドーナのピッツァイオーロ。
マサルドーナは、彼のおばあちゃんで店の創業者のニックネイム。

マサルドーナはピッツァ・フリッタ専門店。
 ↓


ヌテッラのバッティロッキオもあったー。
ピッツァ・フリッタは2枚の生地で具をはさみますが、バッティロッキオbattilocchioは生地は1枚で作ります。

ピッツァ・フリッタとバッティロッキオ
 ↓



揚げピッツァの食べ方、勉強になりました。



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冬のトマト

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今日のお題はトマトです。
今月の「総合解説」の“冬のトマト”の記事は、
「トマトほど豊かな第二の人生を送っている野菜はない」という文章で始まります。

Pomodori #4

夏の間は畑の王様。
キッチンでは、裏漉し、ホール、ペースト、ドライ、オイル漬けなどに姿を変えて、チューブ、缶、ビンの中で一年中活躍の時を待っています。

鮮やかな赤い色、ふっくらとした丸い形、太陽を閉じ込めたかのような芳醇な果肉。

そういえば、イギリスの有名な動物学者が、人間が「かわいい」と思う条件は、赤ちゃんのように小さくて無力で、柔らかくて、暖かく、顔も体も丸っこくて目が大きいことだと発表したそうですが、トマトもこの条件になんとなくあっているような。
ひょっとしたら、トマトは、人間行動学的に愛される野菜の条件を満たしているのかも。

こんな愛され野菜ですから、一年中食べたいと思うのも当然。
アメリカ大陸からヨーロッパに伝わった当初は、毒があると思われてなかなか広まらなかったものの、18世紀末以降は機械化の波に乗り、移民たちと一緒に船に乗って世界中に広まって行きます。

イタリアでは、トマトは最も消費量の多い野菜で、家庭では年間30㎏のトマトを購入するそうです。
トマトの加工品で一番売れているのはパッサータ。

記事の中で、自家製瓶詰めに最適と考えられている品種として紹介されているトマトは、カンバーニアのピエンノロ(ペンドゥーリ)種の房付きトマト。
完熟前に収穫して、風通しの良い場所に吊るしてじっくり、クリスマスごろまで熟成させます。
炎の大地と優しい海の香りを感じる味わいだそうですよ!




こうやって積み重ねていくんですね。
お見事。

ピエンノロのリングイーネ
 ↓




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“冬のトマト”の記事とリチェッタの日本語訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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イタリア語講座

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今日はイタリア便りです。
では、segnalibroさん、お願いします。

今年も、市が主催する外国人の為のイタリア語講座に通い始めました。
授業は数年前まで使っていた小学校の旧校舎で行われ、生徒のレベルに応じてクラス分けがあります。

scuola

今夏、私が住む市は、市が管理する建物を開放して、成人男性の難民40-50人を受け入れました。
県内でこういう建物がオープンするのは3か所目です。
イタリア語をゼロから始める彼らと同じクラスになったモロッコ女子達が、たくさんの男性に交じって授業を受けるのは嫌だと私達のクラスにちょこんと座っていた為、クラスメートの半数はモロッコ女子という構成になりました。
小学校を2年しか行かなかったからアルファベットが読めないという女子もいて、先生はとても大変そう。
相変わらずカオスです。

前回の授業は事件の後だったので、当然パリの話になりました。
彼女たちに聞いてみたいと思うことはたくさんありますが、デリケートな話題ですし、なにより嫌な気分にはさせたくありません。
ちゃんとした教育を受けて育ったと思われるモロッコ女子が1人いるのですが、彼女自らこの話題を口にして、彼女の口から直接思っていることが聞けて、私の心の中のモヤモヤが少しだけ解消しました。
わかったのは、この事件についてみんな心を痛め、苦しんでいるんだということです。

そして今年から、しっかり出席を取るようになりました。
今年の3月、チュニジアの首都チュニスでバルドー博物館襲撃事件が起こりましたが、別の市のイタリア語講座に通う学生が、共犯の疑いがあるとして警察に連れて行かれたそうです。
結局、その学生は全く関係のないことが判明して釈放されたのですが、彼のアリバイを証明した1つが学校の出席簿だったというのが、出席を取るようになった理由です。

先生のそんな話を聞いていたら、突然誰かの携帯が鳴り、コーランが教室内に響き渡りました。
びっくりしていたら、1日5回あるお祈りの時間を知らせるアザーンなのだそうで、今はそんな携帯のアプリがあると教えてくれました。
今まで地下鉄やバス車内で誰かの携帯からコーランが鳴っていたのは、着信音ではなく、お祈りのお知らせ音だったんですね。
初めて知りました。なるほど。

その夜、イタリアのニュースで、ジャーナリストがパリのレプッブリカ広場で男の子にインタビューする映像が流れました。
「ピストルを持った悪い奴らが来て怖いから、ボクはお家を引っ越したい」と言う男の子に、パパが話しかけた言葉がとっても素敵です。



ピストルには、お花で対抗するんだよ、と言って、供えられたお花やロウソクを指し示すパパ。
こんな事件が起こらないように、私にもできる小さなことは何か、ふとした時に考える日々です。


grazie segnalibroさん。


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スクロッカフージ

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今日はマルケのカーニバルのドルチェの話。
マルケ料理なんて、需要あるかなあと思いながらも、訳して今月の「総合解説」に載せました。

というのも、その名前がおもしろかったからです。
名前はスクロッカフージscroccafusi。

いったいどんな意味。
辞書で引いても出てきません。
『ア・ターヴォラ』の記事には、その由来が書いてありました。
scroccafusiの通称は、spaccadentiスパッカデンティ。
歯が欠ける、というような意味です。
つまり、それほど硬い、あるいはかんだ時に歯が欠けたような音がするのだそうです。

そんな硬いお菓子なんて、ますます需要ないなあ。
でも、動画を探してみると、これが意外とあるんです。
マルケの人たちに愛されているお菓子のようです。




素朴な農家的なドルチェで、リチェッタもバリエーションゆたかです。
総合解説に載せたリチェッタは、ゆでてからオーブンで焼くタイプ。

カーニバルのドルチェは、キアッキェレのように州ごとに名前が違う、ということがあります。
チェンチ、フラッペ、ブジーエ、クロストリなど、全部キアッキェレのことです。

このスクロッカフージは、エミリア・ロマーニャのカスタニョーレによく似ています。
今月の「総合解説」にはカーニバルのドルチェのリチェッタも載せています。
13ページにカスタニョーレの写真があるので、6ページのスクロッカフージの写真と見比べてください。

カスタニョーレ

Castagnole: un classico del Carnevale!


さて、ここですぐ思い浮かぶのが、マルケという州とロマーニャ地方の歴史的、地理的関係。
マルケはロマーニャ、トスカーナ、ウンブリア、アブルッツオに囲まれていますが、それぞれ隣接する地方の食の影響を大きく受けています。

余談ですが、マルケmarcheというのは、マルカmarcaの複数形です。
マルカとは、神聖ローマ帝国の領土のことで、各マルカは、マルケーゼmarcheseによって収められていました。
それが、中世になって州全体をマルカの集合体としてマルケと呼ぶようになったのだそうです。

ロマーニャ地方の影響が多かったマルケ北部でロマーニャ地方から伝わったカスタニョーレがスクロッカフージと名前を変えて広まったのかも。
明白な証拠はないけど、それも一考。



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“スクロッカフージ”と“カーニバルのドルチェ”の記事とリチェッタは「総合解説」12/14年2月号に載っています。
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チュッピンとチョッピーノとムケッカ・バイアーナ

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今日はリグーリアのズッパ・ディ・ペッシェ、チュッピンの話。
「総合解説」にもあったように、この料理はサンフランシスコに伝わって、チョッピーノと名を変えて、この海辺の町の名物料理に生まれ変わりました。 (別の説もあり)
動画を探しても、チョッピーノばかりでチュッピンの動画は貴重。
 ↓


記事の元である『ア・ターヴォラ』によると、チュッピンはパンを“浸す”という意味のpuciareが語源だとか。

チョッピーノ
 ↓



この料理、リグーリアとサンフランシスコという港と深い関係のある場所に定着しただけあって、様々な民族の食文化が入り乱れて、その歴史を調べるのは、超やっかい。
調べ始めた現時点で、もうスペイン、アルゼンチン、ウルグアイが登場して、かなり面倒なことになってます。

とにかく、ご本人たちに言わせると、リグーリア料理と南米の料理は似ているものが多いらしい。
言われるまで全然気が付かなかったけど。

そこで『ア・ターヴォラ』が企画したのがリグーリア対ブラジルの料理対決。
「総合解説」ではブラジル料理はカットしました。
ciupppinに似ているブラジル料理はmoqueca baiana だそうです。

moquecaとは、新大陸発見直後の支配者ポルトガル人と、彼らによってアフリカからブラジルに連れていかれた奴隷の食文化が融合して生まれた料理なんだそうです。

ムケッカ・バイアーナ
 ↓



ポルトガル語の食材名、意外とわかるなあ。

そのうち、イタリア料理と日本料理が融合したズッパ・ディ・ペッシェなんてできるかも。


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りグーリア料理のリチェッタは「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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ミラノのレストラン

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今月の「総合解説」で、訳していて一番違和感が残った文章が、ミラノのあるレストランの話。
今年は食がテーマのエキスポで、日本でも何度か話題になったミラノですが、その後、この街はどうなっているのでしょうか。
問題の記事はエキスポ開催前の、景気高揚への期待に満ちた時期の話でした。
それはこんな内容です。
「ワールド・ジョイント・センター20階には、イタリアで一番高い場所にあるリストランテができた」

ミラノ在住の方なら知っているのでしょうか。
ワールド・ジョイント・センター(hpはこちら)。
始めて聞きました。
それと、20階がイタリアで一番高い場所だという情報、イタリア在住の方なら違和感ないんでしょうか。
店のhpによると(こちら)、イタリアどころか、ヨーロッパで一番高い場所についたミシュランの星なんだそうですよ。

軽いカルチャーショックです。



店の名前はウニコ(unico/唯一という意味)。
ちょっと痛く感じるのは私だけでしょうか。

モダンな高層ビルより興味を引いたのは、ポルタ・ロマーナ地区の18世紀の農家再建プロジェクト(hpはこちら)。
カッシーナ・クッカーニャ。
ミラノの中心部に農家の集落を作ろうという画期的な試み。





ミラノの名物料理を出すセルフサービスのレストランや市場もあって、道の駅の雰囲気。
出している料理もモンデギーリ、イワシのイン・サオール、野菜のミネストローネ、ほほ肉のポレンタ添えなど。

最後は、この街のエネルギーを感じる若手の店の料理。
ナイトライフの中心地、ナヴィッリ地区にあってミシュランの星付き。

パニーノ・プッタネスカ
 ↓



ミラノエキスポ前は、街中に勢いがありました。
宴の後、ミラノの現在、そして未来が楽しみです。


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“ミラノ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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カンティネッタにそろえるワイン

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「総合解説」13/14年3月号は来週発売のめどがついてきたので、2月号の話題はそろそろ終了。
締めはワインの話です。
恒例の、イタリアソムリエ協会の会長、ジュゼッペ・ヴァッカリーニさんが『ラ・クチーナ・イタリアーナ』誌に連載したコラムから。

今回は、自宅にワインセラーを作るなら、どんなワインをそろえるか。
イタリアワインで時間によって質が上がるワインは、ずばり、バローロ、バルバレスコ、ガッティナーラ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、サッシカイアなど、よく知られた有名どころ。
記事ではさらに、バローロからプリミティーヴォ・ディ・マンドゥリアにいたる各種高級ワインのブオノとエッチェッレンテのヴィンテージまで表にしてあります。

それにしても、バローロは、ブオノとエッチェッレンテなアンナータばかりで悪い年がない。どの年を買ってもだいたい大丈夫。
しかし、マイナーなヴィンテージでもできの良いクリュを探し出すのがワイン通だそうで。
グランヴィンテージを短期間で飲むなら、この手のワインがお勧めだそうです。
なるほど。

バローロくらいのワインになると、カンティーナでヴィンテージごとの出来を発表しているものなんですね。
一例はこちら

ワイン通も目を見張るラ・チャウ・デル・トルナヴェント(クーネオ/hpはこちら)のカンティーナ。
 ↓


下の動画は、カンティーナの中でワインを飲んでいるような気分になる、フィレンツェのワインが主役のレストラン、ピアッツァ・デル・ヴィーノ(hpはこちら)。





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“カンティネッタの品ぞろえ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年2月号に載っています。
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フレーグラ

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今日から「総合解説」13/14年3月号の話題です(発売は来週ですが)。
最初の記事は、サルデーニャ料理のフレーグラ。

ブログでも以前に取り上げたことがあるのですが、セモリナ粉が粒々になっていく過程は見ていて楽しいので(記事によると、誰もがそう思うので、フレーグラ作りの実演が収穫祭の目玉になることはよくあるそう)、また貼っておきます。

用意するのはテラコッタの口の広いボウル。
フレーグラはラテン語で“こする”という意味のficareが語源。
ひたすらこすります。




粒は大小さまざまな大きさになるので、完成したらふるって同じ大きさの粒を集めます。
小さい粒、フレグエッダはブロードの浮き身用です。

休ませた後、仕上げに低温のオーブンで乾燥させます。
または昔ながらにパンを焼いた後の薪のかまどに入れると一段と美味しそう。
下の写真はゆでる前のフレーグラ。

uncooked

不揃いの形や大きさ、焼き色がこのパスタの魅力。
他のパスタと違ってでんぷんが溶けださないので味や歯ごたえも違います。

ズッパ・ディ・ペッシェや魚介のスープに入れてもOK。





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“2フレーグラ”の記事とリチェッタは「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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カリアリの若手シェフ

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フレーグラの話のおまけ。
『サーレ・エ・ぺぺ』の記事では、お勧めのレストランも紹介しています。
その中の一つ、カリアリのリストランテ・ダル・コルサーロが登場する動画があったので、サルデーニャにフレーグラを食べに行こうと考えている人のご参考までにどうぞ。

2010年に開かれたブロデット・フェスティバルで優勝したのが、この店のシェフ、当時28歳でした。



店のHPはこちら

記事によると、子ヤギの凝乳酵素のマンテカートのフレーグラとか、とても興味深げなものを出していますよー。
サルデーニャの若手の注目株のようですね。
現在はカリアリに2件目の店、FORKというビストロも出して絶好調のようです。


彼を含むカリアリの注目シェフ4人。
 ↓




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“フレーグラ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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カーチョ・エ・ペペ

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もうすぐ発売の「総合解説」13/14年3月号から取り上げる次の地方料理は、カーチョ・エ・ぺぺ。

Spaghettoni Al Cacio E Pepe @ Trattoria Epiro

カーチョ・エ・ぺぺのことを何も知らない時の私は、この料理は、ゆでたスパゲッティをおろしたチーズとこしょうであえる、超お手軽簡単な料理だと思っていました。
ところが、イタリアの料理書にかなり度々取り上げられる記事を読むうちに、どうやらこの料理は、もっと奥の深い重要なものであることに気がつきました。
言うならば、ローマ系パスタ(カルボナーラ、アッラッビアータ、アーリオ・オーリオといったイタリア料理の代表的なパスタ)のルーツではないのか、ひょっとしたら、カーチョ・エ・ペペを知らずしてパスタは、少なくともローマ料理は語れないのでは、と思うまでになりました。

でも、シンプルな料理のわりに、リチェッタが驚くほどバリエーション豊かなのがローマのパスタ。
カーチョ・エ・ぺぺも例外ではありません。
単純にゆでたパスタをチーズとこしょうであえるものから、今回の「総合解説」で紹介しているようにチーズ、こしょう、水をハンドミキサーで攪拌するものまで、かなり様々で、これが正当派だと言える根拠を探すのはかなり大変そう。

ローマ料理の本として信頼されているリヴィオ・ジャンナットーニの『ラ・クチーナ・ロマーナ・エ・デル・ラツィオ』によると、

「この料理は、初めて作るときは必ず失敗する。
酒が飲みたくなる料理なので、最近では深夜の料理として再流行している」
のだそうです。
かなりこしょうが利いてそうですが、彼が本物のロマーノだと認める人物は、この料理に使うこしょうのブランドや、買う店まできっちり決めているそうです。
ジャンナットーニのリチェッタは、ボールに水気をざっと切ったパスタを入れてチーズとこしょうであえるもの。

南イタリアの有名店のパスタを集めた本、『パスタ ; サポーリ・エ・プロフーミ・ダル・スッド』には、ローマのリストランテ・アガタ・エ・ロメオのカーチョ・エ・ぺぺが載っています。
アガタのリチェッタは、オリーブオイルとバターでサフランを溶き、これでまずパスタをあえてからチーズとこしょうを加えます。
こしょうはナイフで粗く潰します。
ちなみにこしょうは花椒を使用。
ペコリーノは、ペコリーノ・ロマーノと、珍しいエンナ産サフランと粒こしょう入りのペコリーノ・ピアチェンティーノのミックス。

カルロ・クラッコシェフは、その著書、『カルロ・クラッコの地方料理』で、こう書いています。

「カーチョ・エ・ぺぺはとても美しくて重要なリチェッタだ。夜や深夜に何か食べたくなったら、カーチョ・エ・ペペこそぴったりな料理だ。
この料理のことを考えると、親友のパオロ・ロプリオーレシェフが作ったカーチョ・エ・ぺぺのことが思い浮かぶ。
自分で作ってみたとき、最初は失敗ばかりで、気に入った味にならなかったが、違うタイプのペコリーノを混ぜるという秘訣をパオロが教えてくれて以来、美味しいものができるようになった」

クラッコのカーチョ・エ・ぺぺは3種類のペコリーノとこしょうでパスタをあえたら生クリームでつなぎます。
ちなみに彼が世界最高の一つと考えているこしょうは、カメルーンのペンジャの黒こしょうです。

“リチェッテ・ディ・オステリーエ・ディ・イタリア”シリーズの『パスタ』にはローマのエノテカ・ヴィーノ・エ・カミーノのトンナレッリ・カーチョ・エ・ぺぺのリチェッタが紹介されています。
それによると、オリジナルのリチェッタではオイルは使わず、最近ではパスタはトンナレッリ、または他の手打ちパスタ、あるいは細すぎない乾麺のパスタがよく使われるそうです。
このリチェッタでは、オリーブオイルでにんにくとこしょうを熱し、パスタとゆで汁を入れて水気がなくなるまで熱し、火から下ろしてチーズを加えます。

すべてのリチェッタが見事に違います。

どのシェフも、自分なりのうんちくを熱く語ってますねー。









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“チコーリア入りカーチョ・エ・ペペ”の記事とリチェッタの日本語訳は「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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マレンマとアックアコッタ

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今日のお題は“マレンマ風アックアコッタ”です。

この料理は、個性的なスープが多いトスカーナ料理の、代表的なスープ料理の一つ。
トスカーナ各地で作られている農民料理ですが、正確なルーツは不明で、地方ごとに違ったアックアコッタがあります。
ちなみに、トスカーナ料理のお勧め本、『イル・グランデ・リーブロ・デッラ・ヴェーラ・クチーナ・トスカーナ』には、4種類のアックアコッタが載っています。
アックアコッタの中でももっともよく知られたマレンマ風は、珍しく、そのルーツがはっきりしている料理です。

今月の「総合解説」でも取り上げた『ア・ターヴォラ』の記事の中で、一番印象的だった一文は、

「マレンマのアックアコッタのことをマレンマについて知らない人に話すのは難しい」

というもの。

トスカーナ料理にかかわる人なら、マレンマ地方というのはかなりお馴染みのはずですよね。
トスカーナのティレニア海側の、州の1/4を占める広大な地方です。
質素な地の食材を駆使して、濃い味の料理を作るという、イタリア人が尊敬してやまない料理哲学で料理を作り出してきた地方で、最近では美味しいワインの産地としても有名になりました。
昔は湿地帯でマラリアの発生源で、生きるのも大変な地方だったというのが、一般的なイメージ。

かつては、ダンテの『煉獄』にも、マレンマが悲劇の舞台として登場するほどで、昔から、苦しみや悲しみがつきものの土地でした。
でも、トスカーナ民謡、“マレンマ・アマーラ”に歌われるマレンマは、意外なことに、そこに住む住民にとっては、みんなが嫌うマレンマでも愛してやまず、ここに戻れなくなるのが怖い、という、故郷への愛情に満ちたもの。
さらに、マレンマ風アックアコッタとは、トスカーナ版カウボーイで、マレンマ種の馬を飼育する牧童、ブッテリと呼ばれる人々の料理だったことが知られています。

マレンマ・アマーラ
 ↓


ヨーロッパ最後のカウボーイ、ブッテリ。
 ↓



19世紀前半に干拓が始まり、現在では一部は国立公園となり、豊かな自然に満ちたアグリトゥーリズモのメッカとして人気の地となりました。






干拓と共に、マレンマ牛を飼育する牧童たちの仕事はなくなり、今は観光客相手のアトラクションなどをしています。
でも、マレンマ風アックアコッタは、彼らが作り出したものなので、そのリチェッタの中にはブッテーリの伝統が残っています。
マレンマのことを知らないと理解できない料理でも、少しでも知るととても面白い料理です。

アマレンマ風アックアコッタの話、次回へ続く・・・。


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“マレンマ風アックアコッタ”の記事とリチェッタの日本語訳は「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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オイルで十字

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マレンマ風アックアコッタの話、続けます。

昔のブッテリたちが作るアックアコッタを再現したリチェタ。
 ↓


カウボーイが広大な土地を馬や牛を追いながら持ち運べる食材と、野原に生えているものから作る、野生児の料理。
あまりに質素なせいか、プロの料理人でこの料理の動画をアップしようという人は、滅多にいない模様。
その代わり、豪華にアレンジしようと思えばどうにでもなりそう。

アレンジ版のリチェッタ。
 ↓



興味深いのが、この地方のパンのスープにオリーブオイルをかける時の儀式。
スープの上に十字を切るようにかけるのだそうです。
日本人がいただきますと言いながら手を合わせるように、神聖なものへの感謝の気持ちをこうして表したんですね。
さらに、ブッテリたちにとってエキストラバージンオイルは貴重品。
牧童頭が持っていて、途中で無くならないように、量を管理していました。
だから、料理の仕上げに各皿にオイルを十字の形にかけるのはリーダーの仕事でした。

家畜を飼育する仕事は減っても、カウボーイや強固な仲間の絆へのあこがれからか、ブッテリの人気は衰えず。




アルタ・マレンマ・ブッテリ協会というのがあって(HPはこちら)、所属する全カウボーイ、カウガールを紹介しています。
カッコイイ!!


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“マレンマ風アックアコッタ”の記事とリチェッタの日本語訳は「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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リゾット・アッラ・チェルトジーナ

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2016年ですね。
今年も元気で行きましょー。

さて、今年最初のお題は、リゾットです。
リゾット・アッラ・チェルトジーナ。
年初の割には地味な料理ですが、この料理、イタリアの米の栽培のスタート地点で生まれた、由緒正しきリゾットです。


Ricetta del risotto alla certosina

この料理とイタリアの米栽培の歴史は「総合解説」に書いてありますが、まずはそもそも、イタリアの米栽培について、補足説明。

そもそも、米をアジアから地中海に伝えたのは、マケドニアからインドまで遠征したアレキサンダー大王という説や、ギリシャ人という説があります。
古代ローマ時代は食料としてよりも、高価な薬として利用されていました。
栽培を広めたのはエジプト人。
そしてスペインがイスラム勢力に支配された時、ヨーロッパに米の栽培が伝わります。
シチリアにもアラブ人がやってきて米を伝えましたが、栽培の普及に成功した人はいませんでした。
誰がイタリアに米を伝えたのかは不明ですが、最も広まっている節では、最初に栽培されたのは、1475年のこと。
その証拠は、ミラノ公のガレアッツォ・マリア・スフォルツァの手紙です。

この人です。

米はロンバルディアから、ポー河沿岸の湿地帯に広まり、他の穀物より収入額が大きいために急速に広まり、ロンバルディアの経済をささえる大切な産物にまでなりました。
16世紀の大飢饉やペストの大流行で食糧難になった時も、米によって救われました。

エミリア地方やトスカーナにも伝わりましたが、これらの地方は治水対策が米に適さず、あまり大々的には普及しませんでした。

ちなみに、フランスで米の栽培が始まったのは13世紀という説と17世紀という説があるようです。
ところがその後、フランスの米は病気にやられて第2次大戦頃まで普及しませんでした。
アメリカで栽培が始まったのは1647年です。

どうやら、米の栽培には治水事業がつきもので、支配者と農民が地域を挙げて取り組まないと普及しないようです。
その結果、イタリアは、ヨーロッパで最も重要な米の産地となったのでした。

米の栽培が始まった場所と言われるロメッリーナ(パヴィア県)の米栽培。
 ↓



ロメッリーナには広い森、川、湿地があり、狩猟をするにはもってこいの場所でした。
そのため、ミラノの支配階級の狩りの館もたくさんありました。
湿地帯を耕して米を作ることに取り組んだ領主の一人がスフォルツァ家です。

そして問題のリゾット、アッラ・チェルトジーナは、チェルトーザ・ディ・パヴィアというパヴィア県の町の修道院で生まれました。
リゾットの中でもすごいリゾットとイタリア人が言うわりには、どんなリゾットなのか、ほとんど知られていないような気もしますが、今では、イタリア一の米の産地となったパヴィアを代表する米料理なのですから、きっとすごいのでしょう。
詳しくは次回に。


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“リゾット・アッラ・チェルトジーナ”の記事の日本語訳は「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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リゾットと米

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『サーレ・エ・ペペ』誌の“リゾット・アッラ・チェルトジーナ”の記事では、この料理をこんな風に説明しています。

この料理は
「昇華されたリゾットの技が必要で時間もかかるため、作るのをためらうシェフも多い」

なんだかずいぶん大げさな。
そもそも、リゾット作りに特別な技が必要?
この疑問の答えになりそうなことが、同じ「総合解説」の“リゾット”の記事にありました。
これも『サーレ・エ・ペペ』の記事ですが、それによると、

「リゾットの基本的な調理は、まず米を炒める。
玉ねぎのみじん切りとバターのソッフリットで米を炒めるというのは、無名の天才料理人の発明だ」

とあります。
なんだか、リゾットに対する姿勢が、根本的に違うような。
伝統料理のバックグラウンドを知らない外国人は、とかく表面的にとらえがち。
イタリア料理において、リゾットは、パスタ、ピッツァと同等の柱なんですよね。
煮物の鍋に残った汁に冷ご飯を入れてリゾットと呼ぶ発想は、そこにありません。

まず米を油で炒めて表面に膜を作ることによって、米は煮崩れしなくなります。
だから、沸騰したブロードを少しずつかけながらじっくり煮て、柔らかくしながら歯ごたえを保つというリゾット独特の米の硬さを作り出すことが可能になるわけです。

「最初に炒めないとお湯でゆでた米と同じ状態に煮上がる」

確かに、ごもっともです。
深く考えたことなかったですが、リゾットの調理方法は、火が通っているのに一粒一粒存在感のある歯ごたえを残すもの。
もちろん、この調理方法を活かすために、イタリアの米の生産者は、大粒で煮崩れしにくいというリゾット用の米をわざわざ作りだしたのです。
日本の米では、リゾットの米のアルデンテは、簡単には生み出せないわけです。

リゾットの主役は、まぎれもなくお米ですね。
そして具は、当然ながら、手に入りやすい畑の野菜。さらに川の多い水田地方の川魚など。
その後は、パスタやピッツァとよく似た歴史をたどります。
海沿いの地方で、魚や甲殻類を使ったアッラ・マリナーラやアッラ・ペスカトーラとスプマンテというのが流行し、イカ墨の黒、トマトの赤、香草の緑、フルーツの香りなどが加わって、何でもありになったのです。
そしてそっくり同じ現象が、世界中に広まりました。
この時点で無国籍料理化していますね。

さらに記事では、大学でリゾットを研究している学者の、コんな説も紹介しています。

「リゾットはイタリア料理の発明の一つで、イタリアの食文化、習慣、農業、経済と結びついている。
アラブ、オリエント、スペインの影響を受け、サヴォイア家の料理人を通してフランスの宮廷にも広まった」

いやー、壮大ですねー。
リゾットを語るときは、このくらいの敬意を持ってのぞまないと。

さて、リゾット・アッラ・チェルトジーナですが、リゾットの壮大なバックグラウンドを知って、少しはこの料理のすごさが分かるかも、という訳で、次回に続きます。

寿司に適したヨーロッパ産の米を作る努力も始まっています。





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“リゾット・アッラ・チェルトジーナ”と“リゾット”の記事の日本語訳は、「総合解説」13/14年3月号に載っています。
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